前の3件 | -
明けたてば蝉のをりはへ鳴きくらし夜は蛍の燃えこそわたれ(古今・恋一・読み人知らず) [小説]
そっと、彼女があたしの髪に顔を埋めてくるのが、あたしを夢から目覚させるきっかけになった。
なんどあたしはいったのだろう、なんど彼女もいったのだろう。
指先、唇、舌先、絶え間なく動かして、声を何度もあげてもらしていた。
ご無沙汰だった他人と楽しむ悦楽、水玉と比較してはいけないけど、リンライは濃密にあたしを責めた。
最初にいかされたのはあたしだった。そのお返しと、あたしが上になってリンライの全身をなめて、敏感な突起を口に含んで舌先で刺激して指を入れて動かした。
リンライがあたしの頭を抱えて、母国語で絶頂感を訴えていた。
なんども頭が真っ白になって腰が抜けた。
「起きないと、香奈」
「もう?」
「仕事は待ってくれないから」
「朝になれば、ビジネスパーソンにお戻りなのね、子猫様」
「従業員への家族も考えると責任は放棄できない、あたしの子犬ちゃん」リンライはあたしを抱きしめて、唇を触れさせながらあたしの胸を撫でた。
「今夜もする?」
「うん、なるべく、時間を一緒に過ごしましょう」悩ましいまなざしでリンライはあたしを見つめてきた。
「リンライ、好きよ」あたしは答えてキスをして舌を絡ませる。
「旦那様が北アフリカから戻られたら、こうする機会はないかもしれないけど、あなたはとてもよかったわ。香奈、わたしもあなたが好き」
「あたし、朝ごはん、作ろうか?」
「香奈、中華粥は作れる?」
「食べた事はあるけど、作ったことはないわ」
「そう、じゃあ、本場の中華粥をわたしが朝ごはんにつくりましょう」リンライは脱ぎ散らかした下着を一瞥しただけで、身につけようともせず裸のままベッドを降りた。
「そのまま?」
「ごはんを作る時は肌を汚さないようにエプロンぐらいは着るけど、このままのほうが、涼しいから節電でしょう」
「えへへ、そっか」あたしも下着をポンと足でけってベッドの横から蹴り飛ばして、
裸のまま床へと降りた。
あたしはみごとに均整の取れたリンライのボディに少し見とれていた。本来、妾はやはり沙希やリンライのように、ダイナミックで男をその気にさせるプロポーションであるのが必須条件なのだろう。女として持って生まれたものだとわかっていたけど、羨ましくて悔しかった。
Aカップの胸にくびれが僅かなウェスト。単純に表現すればあたしは幼児体型だった。
だから、テクニックでカバー。そんなわけではないけど、沙希よりは彼を喜ばす床上手という思いはあった。
「エプロンとか、朝食の食材はわからないでしょう。案内するわ」
「マチ興産がハウスキーピングをしているのでしょう。だったら、いつもの場所にいつものようにあるはず。よく来ていたのよ、あなたが妾になる前に、だからお構いなく」
「そうか」あたしは微笑むリンライに笑顔を返した。
モデル歩きでお尻をリズミカルに美麗にゆらして、リンライが寝室を出て行き、あたしは、お口を磨こうと思って、洗面所へ向かった。黒色の天然石を彫り込んで作られたボールに蛇口を開き、透明で純粋な水を満たされるまで流し続けた。しゃらしゃらと言う水音が耳に優しく響く。
5月半ば過ぎの今日、どんよりとした雲が広がっているのを窓越しに見ながら、貯まっていくひんやりとしたお水の心地よさに、手のひらを遊ばせてみる。
あたしは自分の顔を鏡の中に見つめた。寝不足とわかるしまりのない顔。
彼と寝た時も、彼女と寝た時も、それが、自分を浄化するとか、口臭が恥ずかしいからとか、そんな事だけではなく、昨夜の思い出を自分に反復するための行動だった。
無心になって歯を磨くと、エクスタシーに至るまでにイメージしたことが思い出されてくることがある。
同性と楽しむ時には、男の人とセックスする時のように、射精してしまったらもう終わりという事はなかった。互いの快感に疲労が混じるまで、何度も互いに絶頂を楽しむ。
あたしは、絶頂に達していくまでの間にさまざまなイメージが浮かんでくる。詩の発想になる事も多いイメージだった。
でも、絶頂を迎えた時に、真っ白になって、イメージは微細を失うことが多い。
あたしは、雲海を見下ろすこともある高層マンションの窓から広がる東京の緑を探しながら、シャカシャカと歯ブラシを規則正しく動かしていた。
あっ、蝶だ。今日はエクスタシーを迎えた時に、脳裏に描き出された鮮烈なイメージが現れていた。
詞華が萌葱色に沸き立つ。熱帯の森に花を求めてさまよう無数の蝶が舞う様が脳裏にあったのを思い出していた。
濃厚で甘い芬々、スコールのもたらした雨の匂いと、地面の土の香り。
口をゆすいで顔を水で濡らして、目覚めなさいとあたしは自分に命令する。
いますぐ、詩を書こう。
そのイメージしたものを、あたしは文章へ綴らなくてはと、まっさらなタオルで顔を拭いて、歯を磨く前に髪を縛ったタオルをうち捨てて、昨夜、家についてビジネスバッグから出して放置したままのリビングへと走っていった。
シュメール語、膠着語、日本語に似ているのかもと、リンライに乳首を軽く噛まれながら考えていた一瞬。
そうか、あたしは思い付いた。
あわててノートパソコンを起動させる。新しいノートパソコンになって、OSもWindows7になって起動は速くなっていた。だけども、書くまでの時間がもどかしかった。
ビジネスバッグのなかから日の出テレビに貸与されているデジタル音声レコーダーを出して、録音しようかと思いもして、やっぱり、速記が一番早いと、メモ帳と鉛筆を出してあたしは、蝶の詩を書き綴り始めた。
そして、アイディアをぜんぶ速記でメモ帳に思考のスピードで書きとめた後、あたしは、ゆっくりと、そのメモ帳をノートパソコンへと書き写していった。
「朝から詩作なんだ」リンライがリビングへ朝ごはんを載せたお盆を持ってやってきていた。
「きのうあなたと快楽を楽しんだ時に、イメージが爆発したことを詩にしてるの」
「蝶は蜜を求めて、ひらり。 ひらり、風が緑の葉をなで上げて」リンライは、書きかけの詩の一部を読み上げてみる。
「リンライ、書きかけの原稿を読み上げないで」あたしは抗議するようにノートパソコンをたたんで見せた。
「失礼、芸術家に対して、礼儀を逸したわね」
「それほどでは」
「推敲する前の文章を見せるのは、あなたと創作をともにする昊天様ぐらいですものね」
「まぁ、文学ですから」あたしは、水玉と彼だけだとも思いながら肯定した。
「出来上がったら読ませてね」リンライはテーブルに、お盆を置いて、あたしに中華粥とお総菜を並べてから、着ていたエプロンを脱いで、あたしと同じように裸に戻った。
大きいのにつんとした乳房が美しく、あたしは羨ましかった。
「ええ、できた詩を朗読でもしましょうか」
「わたし一人だけのための朗読会だったら素晴らしい」
「そうしましょう」いただきますと言ってから、あたしはれんげで、枸杞の実が浮かんだ中華粥をかき混ぜていく。
リンライの中華粥はおいしかった。
「しばらく、二人でここに暮らしますか?」あたしは中華粥を食べ終わって、ジャスミン茶を楽しみながらリンライへ言ってみた。
「いずれお互いに嫌になるから、適当な期間だけの方がいいわよ」リンライはそれが当然という表情を表してあたしの目を見つめた。
「そうかな。あなたのことが、好きだけど」
「わたしたち慰め合っているだけでしょ。愛している人に愛されないことを埋め合わせているだけだから、そのうち嫌なところが目につくようになってくるわ」
「そうかな」そうじゃないと思いたかった。
恋?
「沙希様とあなたと、一緒に暮らしていてどうだったかしら」
「憎んでた」あたしは素直に実直に気持ちを伝えた。
「一番ひどいのは昊天様でしょう。わたしは、あなたよりもひどい思いをしたのは沙希様と思うけどね」
あたしは、見詰め返すだけで、言葉は返そうと思案していたけど、適切な言葉が浮かばなかった。
「あんた、なんで、ここまで泥棒猫なの!」沙希はあたしが彼と付き合っていることを告白した時に激情していた。
「そうなってしまったの。麻布を歩いていて、たまたま、彼と出会ったの。沙希の結婚式の時に、お見かけした以来だったから、とっても懐かしくて」
「抱いてと誘ったの?」厳しい表情で沙希はあたしを見ていた。
「そうじゃないわ。その日は、麻布十番商店街の居酒屋『あべちゃん』で、知り合いとして飲んだだけよ」
「全部、話しなさい! 場合によっては、あなたを一生許さない! 私の旦那様を口説くなんて!」
「口説いたのは間違い無いわ。それは謝る」でも、彼がセックスすることをやめることもできたとあたしは思っていた。あたしは入れてくださいとは言わなかった。
「あたしと彼の生活を壊すわけ?」
「奪うつもりはないわ。彼にあたしの立場は言われているのよ。沙希が一番で、おまえは二番だ。それでも俺を愛するなら好きにしろと」
「二番で満足するのかな。高校生の時に私へ恋してきた男の子を、全部、食べてしまったあなたが」
「男前だったから。でも、沙希の旦那様だから二番でいいわ」いいえ、あなたを守りたかったのと、あの時の気持ちは語れなかった。あたしは沙希に恋していた。
近付いてくる男に彼女が汚されることをなんとしても避けたくて、あたしは沙希に恋をした男の子にモーションをかけた。
男子高校生の恋なんて、所詮はセックスをしてみたいという不純が混じっていた。
キスして、あたしを抱いてもいいわと囁けば、沙希のことなんて瞬時に忘れる。
でも、高校生の時にあたしも付き合っている彼が一人いた。
その彼には内緒にしていた沙希への気持ち、そして、沙希に近づいてくる男たちとのセックス。
「男前だったら、誰でも寝るのよね、香奈は」
「そういうわけではないけど、でも、あたしは、昊天を愛してる」
「愛してる、ふんっ! あたしが妻よ」
「妾になれと、彼は言っていたわ」
「妾? そうね、この家では妾がいても不思議ではないわ。でもね、高校生の時に、親友だったあなたを妾として秀家に入るのは、いくら旦那様の選択としてでも許せない。妾は有名なモデルか女優とか音楽家などが伝統だもの」
「あたしは、詩人だわ」
「売れない詩人でしょ。仕事の大半は、広告の文章を考えているだけじゃない」
「貧乏をやめたいの。もう、限界なの」あたしは本音を言った。
髪を切りに行くのもままならなかった。ポニーテールでまとめて、整っていない髪をごまかしていた。
「厚生労働省を辞めて、貧乏に?」
「こんなに苦しくなるとは思っていなかった」
「それが、あなたを、妾にしようとする旦那様の意図なのです、きっと」沙希は少しだけあの頃の穏和な雰囲気を醸し出していた。
中華粥を食べ終わって、身支度をするためにリンライとジャグジーへ行って、キスしたりしながら体を洗って、ぱりっとしたスーツに着替えた。
リビングに戻ってあたしはビジネスバッグにムービーカメラなどを入れていった。
「香奈、そのさ、水色の綺麗なノートパソコン。持ち歩くには重たくない」あたしが詩作を書きとめたノートパソコンをしまうのを見てリンライは言ってきた。
「彼のお薦めのスペックにしたら、こういう上位機種になって、それに、旅先でブルーレイを見たかったの。HDMIというケーブルで繋げば、ハイビジョンで見られるから」
「そうか、でも、前のノートパソコンは盗まれちゃったんでしょ」
「ええ、新幹線で盗まれてしまって、その後、見つかりましたけど、海に捨てられていました」
「それはひどいわね」
「盗んだ犯人を捕まえて自供させて、警備本部の海洋部に見つけて頂きましたが、ノートパソコンはクルマで踏んづけたようにぺしゃんこで」
「犯人はどうしたの?」
「マチ興産の警備本部が警察に引き渡しました」
「あとは、おきまりのパターンね。窃盗に器物破損、そして、強姦未遂とか、麻薬売買の罪名がでっち上げられる」
「結果を考えずに、犯人が選んだことなのです」
「うんって、あの、それって、沙希様言葉」
「真似したの、えへへ」
「へんてこ敬語の沙希様」
「そうなのです」あたしはまた真似して見せた。
「でも、あれって、正妻の立場を親しげに演出するために、おバカなふりをしているためなのよね」リンライは笑って見せた。
「シュメール語のことは、驚いたわ」昨夜、詳しく沙希のシュメール語についてリンライから教えて貰っていた。
「大昔に使われていた死語を解読できる才能は、誰にでもあるものではないわ。特別だとシェン家でも沙希様の語学力を評価しているわ」
「沙希様って、そういう面ですごいのですね」
「香奈、知らされていないようだから伝えるけど、沙希様がシュメール語を理解したのは、16歳の時。昊天様とデートして、三鷹の中近東文化センターへ行った時のことと聞いているわ」
「成城から近くの博物館ね」
「展示物の楔形文字を見て、瞬時に読み始めたと、誰にも教わったことがないはずなのによ」
「だから、選ばれた子なのですか」
「その言葉を知っているの?」
「ええ、沙希様にリンライも選ばれた子だと」
「選ばれた子とは、もともとは、妾となるべくして選ばれた特別な才能を持った子供。沙希様もその一人だった。でも、わたしや沙希様以外にも、十代の頃にはたくさん、選ばれた子がいたの。でも、その中から妾になったのはわたしだけ。そして、沙希様は昊天様が綾子様と離縁されることになったので、正妻になった。だけど、沙希様は、誰にもまして特別な才能を持っていらっしゃった。16歳の時から、昊天様は、沙希様を選ばれた子の中で一番とされていたと聞いているわ。でも、もし、綾子様と離縁されることなく、沙希様が選ばれた子として妾だったら、あなたはどうだったかな」
「麻布に住むことは許されなかったわね」
「何が機会になるかわからないということね。沙希様のシュメール語について才能に関して、一番詳しいのはパリ大学のソルボンヌの古代言語に関する教授かな。パリに沙希様が洋子お嬢様と住んでいる理由は、洋子様がパリ音楽院に進学されたためだけではないと、教えておきましょう。でも、わたしもそれ以上の事は知らされていません。昊天様かシェン様ならご存じでしょうが」
「沙希様の才能の本当の事ですか」
「ええ」
リンライは、自ら伝える事は何も無いと言うように肩をすくめて見せた。
秀家と縁があって、貧乏であるはずがなかった。沙希が必要だという費用は、何もかも、あらゆる方策を講じて彼は援助していただろう。
沙希は、貧しさを演じていたのかと、あたしは、あの頃に豊かでなかった沙希に対して、アルバイト代からおごって配慮したことがむなしく思えていた。
あたしはリンライから視線を外して、床を見つめた。絨毯の柔らかな感触を表すようにきめ細かく羊毛が鈍い光を反射していた。
あたしは親友と思っていた。でも、沙希は、秀家の女だったんだ。沙希は、あたしのことをあの時から、友達ぐらいにしか思っていなかったのだろうか。
心が真実を知りたいと打ち震えていた。
「あなたが妾になったことは、神様のいたずらよ。幸運だったと思うわ。もう時間だわ、いかなくちゃ」
「あっ、あたしも、テレビ局に歩いてはぎりぎりの時間」あたしは、8時を過ぎた時間を見て焦っていった。
「タクシーでも、雪村便でもいいのではないの。それより、歩きでは、その鞄の荷物ではたいへんでしょう」
「ねぇ、このノートパソコンって、もっと小さいので活用できるのかしら」あたしはパソコンに関しては、あまり知識を持っていなかった。
「持ち歩くノートパソコンにブルーレイやHDMIで出力なんて必要なのかしらね。いつも使っているの?」
「ほとんど使っていないかな」
「でしょうね。それに、スマートフォンではクラウドを活用しているのに、あなたの原稿は、そのつど、サーバーにアップロードでしょう。昊天様がご不在だから仕方ないけど、秀家はちょっと一年ぐらいICT技術に関して古いから、あたしが最新技術でマジックをちょこちょこっとしちゃって、軽量のノートパソコンで、いろいろ出来るようにしてあげよっか」リンライは得意満面な表情をあたしに向けた
「軽量のノートパソコンでマジック。なんだか、期待わくわくだわ」
「そうね、だったら、今週末は、河口湖の別荘へ行くのではなくて、秋葉原にいこうか」リンライは化粧を整えてコンパクト越しにあたしを見やった。
「秋葉原ですか」
「秋葉原なのです」リンライは沙希の口調を真似して微笑んだ。
「家ではそれなりの処理をする基幹的なマシンとサーバ、それに、クラウドでモバイルができるようにあなたの持っている道具を素敵にチェンジしましょう」
「リンライ、ありがとう」
「さぁ、もう遅刻ぎりぎりだわ、仕事に行きましょう!」リンライはあたしにキスをしてから、玄関へ向かって走っていった。
「まって、リンライ!」あたしは子供のように叫んで、リンライを追いかけた。
しばらくは、リンライと恋人ごっこかなと思いながら。
あきらめないで [詩]
さよなら [かりもの]
みなさん、いままでありがとうございました。
お引っ越しも、あたしのはほとんど終えました。(彼のお引っ越しは全く進んでいませんが、それは、あまりない病気にかかってしまったせいです)
この曲を最後にします。
でね、お引越し先はこちら。
http://ameblo.jp/kanapoempoem/
TanTanも、ここにアクセスすればわかるわ。
じゃぁね、ばいばい!
皆様、お元気で。
(あっ、Niceもコメントも頂きながらお返しできなかった皆様。お許しくださいませ。あちらでお待ちしています!)
応援して頂いた皆様へ愛を込めて!
さよなら!
前の3件 | -








